2018年7月25日水曜日

「受刑者の20%は知的障害者」は本当か?

数年ぶりにブログを書きます。
Twitterは非常に良いツールですが、長文には向きませんね(当たり前か・・)。

こんな記事を見かけました。
「受刑者の20%は知的障害者」 日本では刑務所が福祉施設化というリアル
2016年に新しく刑務所に入った受刑者約2万500人のうち、約4200人は知能指数が69以下だった。つまり受刑者10人のうち、2人くらいは知的障害のある可能性が高いということだ。


刑務所の他に行き場のない知的障害の方が一定数おられ、生活に困った末に再犯を繰り返すケースが以前から知られていて、福祉課題の一つとなっています。

受刑者の2割が知的障害の可能性、というのはかなりインパクトのある数字です。
ただ、私は以前に「受刑者に占める知的障害者の割合は1%台」とする論文を見たことがあり、数字の乖離を不思議に思ったのです。
Twitterでのやりとりはこちら

調べてみると法務省の調査を見つけることが出来ました。
知的障害を有する犯罪者の実態と処遇

初めに断っておくと、私はこの問題にそこまで詳しいわけではありません。
論文に書いてある以上のことは答えられるか分かりませんし、読み違えがあるかも知れません。気づいたことがあればご指摘いただけると助かります。

【調査の背景】
まず先行研究では、受刑者に占める知的障害者の割合を22.8%とするものと、1.5%とするものがあるようです。
-我が国の刑事施設入所者の中に,知的障害を有する者がどの程度いるのか?- この疑問に対して,例えば厚生労働科学研究報告書(2009)では,受刑者の知能指数に関する「矯正統計年報」データを基に,「IQ69 以下の者が22.8%」と指摘している。一方で,法務省矯正局公表資料(2007)によれば,平成18 年10 月31 日の時点で,全国15 庁の刑務所に収容されている受刑者27,024 人のうち,知的障害者又は知的障害が疑われる者は410人であり,その比率は1.5%となる。 
何故それ程に開きがあるのか?
「矯正統計年報」では知的障害者が2割以上いるとしていて、上述の記事もこのデータを参照している物と思われます。この統計では、「CAPAS」という検査を用いているのですが知的障害の判別に使うには妥当性を欠くようです。実際に、以前は「知能指数(相当値)」という表記をしていたのが、現在では「能力検査値」と改められているそうです。

一方で、知的障害者が1.5%とする法務省のデータは、全ての施設を対象にしたものではなく、特に知的障害者が多いと予想される「医療刑務所」が除外されているそうです。そのため実際にはこれよりも多いことが予想されます。

そこで「全刑事施設を対象にCAPAS後の個別検査も踏まえて調査する事」が、この調査の目的となります。

【処遇状況調査】
(1)用語の定義
 診断のある者を「知的障害のある受刑者」、CAPASなどで精査が必要と判断され、その後の精査(9割はWAISを実施)でも可能性が高いとされたが確定診断に至っていない者を「知的障害疑いのある受刑者」とする。

(2)調査の対象
 全国の刑事施設本所のうち拘置所を除く、刑務所62庁、少年刑務所7庁、刑務支所8庁の計77庁。

(3)結果
・受刑者総数56,039人
・知的障害受刑者1274人(知的障害あり774人、疑い500人)
・知的障害受刑者の割合=2.4%
※F指標受刑者(外国人)は日本語理解が不十分なため母数から除外。


【CAPAS能力検査値、個別知能検査IQについて】
 日本の制度では受刑者はまずCAPASを受けるようです。知的障害者が2割とする「矯正統計年報」はこの時点でのCAPASの結果に基づいているようです。
我が国の刑事施設においては,入所受刑者の知能を含めた能力を査定する第一次スクリーニングとして,CAPAS 能力検査が全刑事施設で統一して使用されている。CAPAS 能力検査が実施できなかった場合や,実施した上で必要に応じて,更にWAIS 等の個別知能検査が実施されている。
CAPASの結果で知的障害の疑いがあればWAISなどの個別検査を行うわけですが、そのデータは公表されていないようです。
個別知能検査は全受刑者に対して実施されているわけではなく,データも公表されていないため,入所受刑者の知能に関連するデータで公表されているものはCAPAS 能力検査値しかない。そのため,第1節で述べたとおり,知的障害の判定をするには不完全なCAPAS能力検査値の結果を基に,「我が国の刑事施設入所者の20%以上に,知的障害の可能性が示唆される。」旨の指摘がされることがある。

 先行研究において、CAPAS検査は加齢によって得点が低下すること、構成される尺度の得点において男女差が見られるという指摘がされているようです。

 WAISとは弱い正の相関があるものの、若年層ではCAPASが高くでて、高齢者では低く出る傾向があると書かれています。つまりCAPASによる評価では、特に高齢者において実態よりも低く評価され知的障害と判定される場合が想定されるようです。

総合するとCAPASによる「受刑者の2割が知的障害」という表記はミスリードを誘うもので、2.4%という数字の方が妥当性が高いように思われます。ちなみにWAISにおいてIQ70を下回る人の割合は約2.5%となるので、「一般社会における知的障害者の割合」と「受刑者における知的障害者の割合」は変わらないと言えそうです。


【知的障害受刑者調査】
 この研究では、全数調査とは別にH24年1月から9月までの9か月間、知的障害受刑者548人(知的障害あり296人、知的障害疑い252人)を対象に調査をしています。比較対象として同時期の入所受刑者18463人のデータが使用されています。

この中で福祉・教育とつながっていたことのある割合は下記の通り。これが多いか少ないかは判断が難しいですが、福祉につなげる事だけが課題ではなくて、支援の質自体にも課題がありそうです。
・療育手帳所持者は27.6%(知的障害のある者で45.6%、疑いで11.9%)
・支援教育を受けていた者は38.9%
・各種福祉サービス受給歴は41.8%(生活保護26.3%、障害年金12.4%、施設入所3.5%)

全体的な特徴としては次のような事柄があげられています。これらを見ると、一般受刑者よりも困窮度合いが高いことがうかがえ、支援が必要である事は論を俟ちませんね。
知的障害受刑者の特徴を,特に入所受刑者総数と対比して総合的に見ると,住居不定の者,結婚歴のない者,無職の者,義務教育段階までの者が多いなど,生活環境に関する様々な負因を抱えている者が多いことがうかがえ,また,再犯期間に関連する要因の分析においても,仕事があること,収入があること,住居があること,配偶者や親族等がいることといった,社会復帰にとって重要な条件を満たす者が再犯期間が長いなど,刑務所出所者等全般と共通する所見が得られた。一方で,調査対象者は,特別支援学級等の知的障害に対応する教育・福祉のサービスを受けた経験を有する者は必ずしも多くなく,家庭で実施するのが困難であろう教育訓練等を経ずに,生活の自立を求められ,その結果,短期間に犯罪を繰り返し,多数回受刑に至ることを余儀なくされた者も少なくないのではないかと推察される。

とまぁ色々書きましたが、「第1章 はじめに」「第4章 おわりに」を読めば良くまとまっているので十分かもしれない・・・・・。
疲れたのでこのあたりで。

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